Amazon Connectは、クラウド型コールセンターを低コストかつ短期間で構築できるAWSのサービスです。近年では日本での導入実績も増えており、クラウドの利点を活用したコールセンターも増えてきました。本記事では、Amazon Connectとは何か、メリットやデメリット、導入事例等について解説します。
ネット通販で有名なAmazonが、社内で利用しているコールセンターシステムをサービス化したものがAmazon Connectです。このサービスはAmazonでの十分な利用実績がある反面、他のコールセンターシステムにはないAmazon独自の概念や仕様も存在しており、一長一短があります。
弊社では、2019年からAmazon Connectを用いたコールセンターシステムの開発や保守運用に携わっています。本記事では、長年の経験から見えてくるAmazon Connectのメリットや問題点について解説します。
Amazon Connectのソフトフォン (エージェントが電話をかけるときに使う画面)
Amazon Connect以外のクラウド型コールセンターサービスとして、Genesis Cloud CXやLINEのコルク、Zoomコンタクトセンターなど多く存在しています。それらとAmazon Connectとの大きな違いはコストです。
Genesis Cloud CXなどのクラウドサービスでは、席数による課金がなされ、電話料金 + 利用時間 + 席数によって課金されます。利用数によって金額が増える形態ですが、その代わり、最初から十分な機能が付属しているなど利点も多いです。
対して、Amazon Connectでは、席数という概念はなく、電話料金 + 利用時間によって課金されます。また、違約金なども存在しないため、月の途中で利用を停止した場合、追加で課金されることはありません。その代わり、コールセンターの構築やカスタマイズが少々難易度があり、場合によっては、Amazon Connectの構築に詳しい外部に発注する必要があります。
そのため、長期的なコスト削減や自社用に日々カスタマイズしていきたい場合はAmazon Connect、カスタマイズの必要がなく、コストがかかってでも安定して便利なサービスを使いたい場合は他のクラウドサービスという風に選ぶ必要があります。
Amazon Connectのメリットには、以下の4つが挙げられます。
Amazon Connectは使用するサービスや機能ごとに課金されます。例えば、以下の表のように使用する電話番号の種類や電話方式によって課金されます。
1日あたりの所有料/USD | 1分あたりの受信通話料/USD | 1分あたりの発信通話料/USD | |
---|---|---|---|
直通ダイヤル | 0.10 | 0.003 | 0.078 |
フリーダイヤル | 0.48 | 0.08 | 0.078 |
他サービスでは定額料金 + 電話の利用時間で課金されるため、安く抑えることが難しいです。Amazon Connectでは全ての機能が時間単位で課金されるため、コールセンターを効率化することで、コストを抑えることができます。
IVRの構築はノーコードで行えます。直感的なブロックや分岐の要素を使って、複雑なフローを簡単に作成できます。
また、コールフロー内でAWSの各種サービスとの連携も簡単に行えます。例えば、Amazon Lexという自然言語処理サービスと連携することで、電話の目的や要望を抽出することができます。これを使えば、自動で通話記録の保存をしたり、簡単な予約などの応答を自動化できます。
Amazon Connectでは通話録音やチャット機能が使えます。
通話録音は標準機能として使うことができます。また、Contact Lens for Amazon Connectを使うと、カスタマーとの通話内容を文字起こししたり、感情分析や通話のキーワードをトリガーに通知を出したりできます。
また、音声通話だけでなく、チャット機能を利用したお問い合わせにも対応することができます。チャットでのお問い合わせを導入することで、カスタマーはホームページからオペレーターに直接質問することができます。
先ほどコールフロー内での連携でAmazon Lexを紹介しましたが、AWSが提供している多くのサービスとの連携を簡単にすることができます。
例えばコールフロー内でAWS Lambda(以下、Lambda)の関数を呼び出すことができます。Lambdaとは、クラウド上にプログラムを書いておくことで、インターネットを通じて呼び出し、実行することができるというサービスです。例えばカスタマーから電話がかかってきた時、電話番号を引数にLambdaを呼び出すという使い方があります。データベースやストレージ(S3のストレージサービスなど)から顧客情報を取得し、オペレーターの画面上に情報を表示できます。
このようにAWSの各サービスを使ってカスタマイズをすることで、独自の要件にあったコールセンターを構築できます。
Amazon Connect本体では、CRMの機能は付いていません。CRM(Customer Relationship Management)とは、顧客情報を一元管理するツールのことです。
コンタクトセンターの情報をCRMと連携することで、例えば顧客の電話番号と名前を紐付け、対応状況や履歴を記録に残すことができます。これにより業務の効率化を図り、サービスの質を高めることができます。
例えば世界でトップシェアを誇るSalesforceとの連携をすると、SalesforceのユーザーIDとパスワードのみでAmazon Connectにログインをし(シングルサインオン)、通話情報や顧客の履歴をSalesforce上で自動的に管理してくれます。
Amazon Connectのデメリットとして、以下が挙げられます。
これらはデメリットではあるものの、工夫次第で問題を解決することもできますので紹介していきます。
Amazon Connectの音声はネットワーク回線を使用しています。そのため、電話回線を使用した電話と比べ通話品質があまり良くないというデメリットがあります。
そのため、Amazon Connectを利用してコールセンターを構築したい場合、良いネットワークを用意することは必要不可欠です。ネットワークが安定しているかどうかは、以下のサイトで確認することができます。
Amazon Connect Endpoint Test Utility
このサイトでは、今使っているパソコンのネットワーク状態を調べることができます。同時に音声が安定しているかを見ることができますので、確認しておきましょう。以下のページで、灰色に塗りつぶしている部分に使用するインスタンス名、地域をTokyo(ap-northeast-1)に設定し、「Run tests」を押してください。
以下のように問題が出ていなければ、ネットワークやマイクなどに問題はありません。
決済は米ドルでのクレジットカード決済となるため、請求時の為替レートによっても変動することが予想されます。
また、上で紹介した通り、Amazon Connectで通話をすると以下の料金がかかります。
1日あたりの所有料/USD | 1分あたりの受信通話料/USD | 1分あたりの発信通話料/USD | |
---|---|---|---|
直通ダイヤル | 0.10 | 0.003 | 0.078 |
フリーダイヤル | 0.48 | 0.08 | 0.078 |
これは基本料金であり、S3やAmazon Lexなど別サービスを並行して使用すると、そのサービスの分上乗せで利用料金がかかります。コールセンターの稼働率が予想できない場合、料金の予測も難しくなります。
AWSには予測請求額をアラートで教えてくれるAmazon CloudWatchというサービスがあるので、これを活用すると良いでしょう。
Amazon Connectを使用する際、カスタマーセンターと連絡を取り電話番号を取得する必要があります。取得できる電話番号は、IP番号の「050」、フリーダイヤルの「0120」と「0800」、東京の固定電話の「03」から始まる電話番号のみです。
既存の電話番号を使用したい場合、移行できるかの確認と申請を通すことでAmazon Connect上で利用することができます。移行できない場合は、転送の設定をしてAmazon Connect上の電話番号で着信ができるように設定する必要があるでしょう。
今回の記事では主にAmazon Connectを使用する際の特徴について解説しました。
Amazon Connectはクラウド型のコールセンターシステムで、音声通話だけでなく、チャット機能やタスクの機能など、さまざまなやり取りを実現します。拡張性が大きいのが大きな特徴で、ニーズに合わせて簡単にコールセンターの規模を拡大したり、場合によってはオリジナルのアプリを作ってコールセンター業務のプラットフォームを作成することもできます。
この記事のほかにも、Amazon Connectに関する機能等について詳しく解説している記事がたくさんあります。それらを参考に、Amazon Connectを導入する際の参考にしてみてください!